2017年12月19日火曜日

憶い出BOROBORO 後編


前編は→ここ

それはそれはもう……
小さなほうも大きなほうも散々に混じり合ってるタイプで、その混沌のディストーションは酷いフラグメントが香る大変規模の大きなモノッスゴイものだった。

本当に本当に夥しい範囲の代物で……布団の半分ほどもイッていた。リヒャルトは小学校の低学年。そのゴブリンよりも小さな矮躯でどうやってこれほど捻り出したのかと、私は純粋に感心したほどだ。

すまない。

こんな穢れそうな想像をさせて誠にすまないが、あれは本当に見せてあげたい。未だに網膜から消え去ってくれない衝撃映像なのだから。

それは朝のことではなく、夜に起こった。

一日中農作業を手伝わされた兄と私と妹とリヒャルト。
妹は風呂に入っていた。
リヒャルトは疲れ果てて、八時前だというのに、泥だらけのまま自室に戻り寝てしまった。

兄と私は居間でテレビゲームをしていた。やいのやいの燥ぎながらスコアを争って、コントローラーを握る手だけでなく体全部を使って肩を小突かせながら。

フッ……。

畑を手伝わされている最中は、辛そうな顔でよろめく演技などをしてるのだ。

親に心配して欲しい。
『これ以上手伝わせたら我が子が体調を崩すかも』

そんな按配の方向で心配して欲しい。
フフッ。
浅はかだが、親へ向かってそういう児戯・演技を真剣に一生懸命やるのだ。
本当は疲れてないが、土弄りつまんないから休ませて欲しい。
そんな正直を言っちゃならんことくらいは、分かりかけていた頃の話。

そう、何もかも演技。やんちゃな子どもは元気などあり余っている。カラスが室内入ってくるなどという珍事は、内心楽しくて楽しくて仕方がないことだったんだ。

畑仕事が終わって親から開放されたなら、神妙さを醸す演技などやめてケロリと復活だ。
その後はいつも兄とゲームに没頭しっぱなしで、宿題など思い出しもしない。
それが小学生であろう。それが童のこうあらん姿であろう。

いいや子どもの時だけじゃなくて、これは概ねで大人になってからもそうあるべきなのだが。
みんな息の抜き方を知らなすぎだ。
でも今はみんなのじゃなくて私の話をしてるんだから、ちょっと黙っててくれる?

それでその日。いくら頑張ってもゲームスコアで兄に及ばない私は、ひととおりブチキレてから、部屋に戻ったわけだ。
いはやは。
懐かしいものだなぁ。何もかも本当に懐かしくて、顔が綻んでしまう。全てが楽しい子供時代のこと。

温かくて、切ない。

だが、当時の私は兄を居間に残して自室へと戻り、自らの布団の大惨事を……目撃するわけだ。

これだけはまったく切なくない。温度はホカホカだったが。

犯人は1秒で分かった。

とてつもない事態になってる布団。
これはしかし、明らかに私の布団ではないし、こんな卑怯な真似をするのはリヒャルト以外の誰であろうかといくら考えても、思いつく相手がまったく居ない。

私からはそう思われるような奴なのだ、普段から。

布団交換の犯人、正確にはまだ容疑者であるが、そのリヒャルトを責めて真実を吐かせるべく、あやつの部屋のドアをバンッと開け放つと、糞野郎は土下座で私を迎えてくれたものだから、話も早く世話の掛からない奴だ。

『いい心掛けだな糞野郎。布団を元に戻せ』
私は再交換を命じた。

『ちょ、待ってくれっ。父さんの拳骨が終わるまで待ってくれっ』

リヒャルトが意味不明の要求を申し奉ってきた。

いいや、意味はすぐに分かったさ。
ようするに私の汚い弟は、親からの怒られイベントが終わるまで、寝小便その他をしたのは自分でないことにしたいわけだ。

一時的に、

そちらのせいということに、

しといてはくれまいか?

ふむ。ぶっ飛ばす。

私は弟の腰を掴み、そのままバックドロップしてやった。
喧嘩スタート。
そしてプロレスが楽しくなっている内に、親とジジババが帰ってきてしまった。

親はどちらも、そしてジジババも、濡れ衣というか濡れ布団が私の由縁でないという事実を信じてくれず……父さんの拳骨制裁は私のほうに下された。

数時間後に汚いリヒャルトは、興奮もすっかり収まった父さんに謝罪した。
『本当は自分がやったのだ』
父さんは、自分から申し出たリヒャルトの正直さを褒めた。


なっ、何故だよ。何故なんだよ。不条理すぎるだろう。

フッ……フフフフフフ。幼い身空で私は、あの日ほど、世の無慈悲さ残酷さを憂いたことは、それまでになかったよ。


お互い大人になり、もう2017年が終わろうとしている。
だが、このトピックについて私は未だ納得がいかないのだ。

糞押し付け糞野郎の糞リヒャルト。奴が捻り出してくれたこの苦い記憶が、今でも私を苛んでいる。
何故かこのイベントだけが、私の中でいつまでも笑い話に成らない!
大人になったはずなのに、
子供の時のこの記憶だけは、
この記憶だけは、
この記憶だけはぁぁ、
私を、
くぅ、
幼稚な怒りに掻き立てるのだ。

糞野郎めっ!

だが、
以前それについて、
かなり執拗に言及してみたのだが、
いくら追求しても、
あやつは、
糞リヒャルトの奴は、
そんなこと覚えていない、
と……。

『そんなことは、なかったんじゃないかな。ぜんぜん覚えてないよ俺』
私をそんな風に言いくるめようとしてくるばかりなのだ。
だから私もだんだん……
『そんなことは、なかったかもしれないね……うぅ~ん』
と騙され始めている。

このままではいけないッ!

早くリヒャルトを斃さなければッ!

糞ッ!

おいこらッ! リヒャルト糞野郎ッ!

あのプロレスはまだッ、終わっていないんだからなッ!?


いや……。

でも、どうなのかな……。

何しろ昔すぎる話なのだ……。

本当にそんなことは無かったのかも、しれない……。

う~ん……?

あ、あれぇ、糞したのって……

えぇ~、わ、私だったのかなぁ……?

ごめんねリヒャルト……

疑ってしまって……。







終わり。


……ん?

これ何の話をしてたんだっけ。
憶い出としてはまったく甘くも切なくもないし。


あ~そうだった。公式サイトの500エラーについてはieで見たら普通に見れたから、別に困ってないです。



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