2017年12月25日月曜日

モンスターペット箱の誘惑 a fragment of B


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[サンタキャップでヘアチェンジ 全キャラリスト]☜理解の材料


私は考えた……。



お金を無駄にしてはいけないと囁く天使の自分。
さっさとモンスターを6種揃えてしまえと誘う悪魔の自分。

頭の中で渦巻く聖戦。
光と闇の終わらぬ鬩ぎ合い。
どちらが地獄の門のあちら側へ堕とされるのか。

冷静な答えを出すための
私と5匹の旅は続く。




 モンスターペット箱の誘惑 a fragment of B 


一歩ごとにF3キーを押してしまいそうになるのを懸命に堪えながら、私は醜く小さな5匹の後を追った。
まったく。
主人より先に行くペットたちに私は笑顔で溜息をついた。

さして長いとはまだいえない旅路の途中だが、私はこの醜悪な姿をした子達に或る程度の愛着をもつに至っている。
共に過ごす時間というものは、第一印象とやらに勝るのだ。

午後の日差しはいつの間にか陰り、やれやれ曇りかと思ったらただの夕方だった。
どうやら時間の感覚を失っていたようだ。

F3キー……つまりパールショップに入るためのショートカット。
こいつが私の頭の中をずっと占拠している。



BGM それがあなたの幸せとしても ほとり

http://www.nicovideo.jp/watch/sm20503793(巡音ルカ本家)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm20963278(ほとり氏の歌ってみた)
作曲 Heavenz
Illustration 飴村
MIX KUMA
Vocal ほとり



カルフェオン南部からフローリン村までやってきた私と5匹は、そのまま裏山を散策していたら勢い余ってオルビア村に着いてしまった。

私は昔から事ある毎に、やり過ぎるところがあると親や友人に呆れられる性格だった。物の程度を知らないと。

それの何が問題なのか分からなかった子供時代は懐かしいけれど、大人になって不利益を被るに至ってようやく思い直すわけだ。
他の人がもっと賢く低燃費で行っている些事が、燃費の悪い私にとっては全部大ごとになってしまう。
人より効率の悪い生き方をわざわざ選択する必要は無い。

……どうして家を飛び出してしまったのか。
私が暮らしていた所に比べたら、このオルビア村ですら大都会だった。
此処に来たら何かが待ってると思ってた青い時代。
時間が戻せるなら色んな過ちを正して回りたい。

でも、今まで過ごしてきた時間を全部やり直すなんて面倒臭すぎる。
やっぱり却下。


ペット達と時間を共にしながら気を紛らわせるための旅だったのだが、社のほうから呼び出しがかかってしまった。
休日でも待機状態たるべし。少々黒めな我が社のモットー。

ぐっとひと伸びして気持ちを仕事モードに切り替えてから、私はペット達と一時別れる準備を始めた。
少し名残惜しい。

道すがらベリア村でお世話になってるダビドさんの酒場に寄り、この子達を預かってもらう約束を取り付けた。
休暇期間中の出動要請に対する最後の抵抗として、ここの二階に借りてる部屋で少し長めのダラダラとした時間を過ごしてから、今日の仕事場になるらしいハイデルへと向う予定だ。

常にエフェリア港本社からガンとして動かないボスまでも出張って来ているというから、いったい何ごとなんだろう。
おっと。うたた寝してたら寝坊した。急がなきゃ。



それは何やら、討伐だの採集だのといった普通の仕事ではなかった。
今話題沸騰中のサンタキャップの検証をすべく、うちの社員全員の頭にそれを被せて其々の変化を撮影・記録したい……とか何とかっていうテレビ局の取材要請に応えるため、私は、私達は呼ばれたらしい。

あの謎帽子はこないだもうベリア支社の子に貰って被ってみたから知ってる。本当に髪型が変わってしまう不思議なアイテム。

まぁもう持ってないけど。
ボスに取られちゃったから。

「撮影か。嫌だな……」
スタジオでそう漏らす私に気安く声を掛けてきたのは、最近アルティノ支社のトップを任された男。
「また愚痴、かぁい? 君はいつもそぉだね。元気出しなよ」
いつもどおりの気障な言い回し。
この男性社員は以前後輩だった。けれど、あっという間にそれまでのNo.1だった私を追い抜いていった……。
お陰で今の私はメディア中を駆け回るお仕事をさせられている。アルティノでふんぞり返っていられた時間が懐かしい。

後ろ向きに手をひらひらとしながら、スタジオに集う他の社員へ声を掛けに行く軽快な彼を、私は恨みがましく見送った。
「オルビアでひたすら木こりやらされてた男が、偉くなったもんだよねぇ」
次いで話し掛けてきたのはロドリゲス。共にメディアを駆け回る同僚の女。
この子はあの元木こりのセクハラを訴えたら、危険な廃鉄鉱山専属にされてしまった。なんて可哀想な奴。世の中の理不尽に喰われてしまったんだ。
「仕方ないわよ。あいつ多分ボスのアレでしょ。ところで……なぁにミシェル? そのメイクは」
私がそう聞くと、サンタキャップの撮影が既に終わったらしい彼女は帰る支度をそそくさと整えながら答えた。
「これからすぐドロボー役のオーディションがあるんだ。絶対出たい映画だから急がなきゃ」
そういえば彼女は女優とかもやってたんだっけ。何か訊きたげなテレビ局のスタッフをすげなく躱し、ロドリゲスは帰っていった。


「すいませーん。じゃあ、次お願いします」
女優に振られたスタッフが私の方へそう声を掛けてきた。
困ったな。私は右45度からの写真じゃなきゃ嫌なんだけど。

正面からだと、どうしても伯母さんの顔を思い出してしまう。何をやっても馬が合わず、いつも長ったらしい文句ばかりで、あまり好きになれなかった伯母さんの面影と……日に日に似てくる私のお顔。

まずはサンタキャップを被っていない普段の姿から撮るそうだ。
「ご免なさい。少し下から過ぎます」
私が出来るだけ申し訳なさげな表情で撮り直しを要求すると、忙しそうなスタッフの顔が少し歪んだ。
「あの……確かに下からじゃなくなりましたけど、正面すぎませんか? 45度からってお伝えしたのに、伝わってないですか? それに照明も当たって無いし。あと言いにくいんですけど、ガレオン船のセット用意したからって釣り竿持たせるのもおかしくないですか? 合ってない気がするんですけど」
少し言い過ぎただろうか? スタッフの男性は額に青筋を浮かべながら私のことを後回しにすると言ってきた。一応丁寧語ではあったが。

続いてスタッフに呼ばれたのは、社内で『インスタ映え狂い』と呼ばれてるベリア支社の子。先日私にサンタキャップをくれた同僚だ。
「すいませーん。そのケープみたいなの外してもらっていいスか? 髪の撮影なんで……」
スタッフの注意気味な要請に対して、満月の背景セットを背に彼女はこう言ってのけた。
「急かせるのやめて下さる? ほら、額に汗掻いてるの映っちゃってる。撮り直そうッ!」
彼女は自信が下がる自画像など認めない、決して。
映え狂いちゃんに何回も何回も撮り直しを要求されて、スタッフ達はてんてこ舞いだ。私の相手のほうがさぞかし楽だったろう。
見学するのも疲れた私が花摘みへ行って休憩して少し仮眠してから戻ると、彼女はまだやっていて、何故か羊を担いでいる写真を撮られていた。いいや、彼女のほうから望んだのだろうか。謎だ。
結局彼女が満足する写真が出来上がるまでに半日を要した。撮影し終わった今も青髪になった自分の画像データを貰ってまた映え狂っている。

そんなこんなで再度私の番がやってきた。
クリスマス風にデコられた満月セットの方へ案内してくれたのは、半日前よりも表情が自然な様子で少し優しくなったあの青筋スタッフ。
彼女の相手がよほど堪えたのだろう。
人間、より強い苦痛を与えられると弱い痛みなど感じなくなるものだ。良薬は口に苦し? ちょっと違うかな。
疲れ果て気味なスタッフ君を気遣い、今度は言いなりなって撮影されてあげた。

続いてサンタキャップを被ってのヘアスタイル変化観察の実証写真撮影。
この頃には私とスタッフ君はかなり打ち解け合って、親しい会話なども出来る仲になっていた。
親しさついでに変な写真まで撮られた様な気もするが、採用するのは右45度のにすると約束させたので多分大丈夫だろう。

他のメンバー全員の撮影完了までは待たなくていいとボスが言ってくれたので、私はテレビ局のスタジオをあとにした。
そして思い出したかの様に、ペット達の許に戻るべくベリア村へ向かっている。

実際、思い出したのだ。

マスメディアのお昼番組の協力なんて億劫なことだと思っていたけれど、こうして終わってみれば悩み事を忘れさせてもらっていたことに気づかされた。
私はそう。
パールショップで更にモンスターペット箱を買うかどうかを悩んでいたんだ。
そうだったよね。


つづく



続き☞[モンスターペット箱の誘惑 a fragment of C]

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